公共政策大学院 2007年度ミクロ事例研究(放送・通信班)

担当者

今川拓郎・松村敏弘 

科目概要

   1年生班は、ミクロ、マクロ、計量を学ぶ前に、具体的な事例に取り組み、 今後学ぶこれらの分析道具を使いこなすためにイメージを作ることが目的です。 最終的に提出するレポートは、既に学んだ道具を使いこなした成果ではなく、 これから学ぶ差異の出発点という性格を持っています。 したがって、レポートの完成度は必ずしも高くなくとも、使った道具が若干不適切であったとしても、 後になって「こうすればより良いものになった。そのことがミクロ・マクロ・計量を学んで認識できた。」 と実感できれば、コース全体として成功であるといえます。 公開したレポートを読まれる方はそのような性格のレポートであることをご承知おき下さい。 2年生班は1年間かけて調査を行うレポートの中間報告です。 最終的な報告書は冬学期末までにまとめることになっています。

前期レポート

(1) 電波班(1年生)
報告書タイトル 電波利用料制度への批判的検討:移動電話無線局別課金制度が生む非効率性
要旨
近年、電波利用政策が経済的に非効率ではないかという議論が盛んになっている。 その議論の主要論点の中から、電波割当すなわち、電波帯域の分配に対する非効率性と、 電波利用料の生む非効率性の二点について考えた。 この二点に関して、本レポートでは、前者については先行研究における改善案を検討する。後者に関しては独自の推計結果により考察していく。 電波帯域割り当てを効率的にするための方法としては、オークションと保険・補償メカニズムについて検討した。 これらの先行研究を踏まえて、電波価値を経済的に測る何らかの指標を具体的に提示できないかと思い、 電波利用料の生む非効率性について考察した。 分析手法として、携帯電話の需要曲線を推計し、無線局ごとに課されている電波利用料が生み出す経済厚生の損失を算出した。 その結果、完全競争を仮定すると、消費者余剰ベースで年間約52.3億円の損失が発生している。そして、クールノー競争の場合、消費者余剰ベースで毎年約29.4億円の損失が発生している。更に生産者側の厚生損失を加味した場合、経済全体で、約150億円の損失が発生している。 分析結果から導かれる事は、今後の電波政策において、 『包括免許等に係る電波利用料』を廃止すべきだという提言である。 移動電話ごとに課金される電波利用料は、経済的厚生損失を生む。 よって、それを回避するために、『包括免許等に係る電波利用料』のような端末ごとの利用料課金制度を廃止、 もしくは見直しをしていく必要がある。現実的な代替案としては、『包括免許等に係る電波利用料』を廃止し、 その分を全て、帯域ごとに課される『広域専用電波の電波利用料』のような、 無線局数の増減によらない料額算定方式に変更すべきだと考えられる。
報告書(電波班).doc

(2) 放送班(1年生)
要旨
「あまねく日本全国に」「良質の放送番組」を提供することを目的としたNHKは資金の提供者(スポンサー) の意向に左右されずに番組を作成できるように広告料収入を排除し、 受信料収入という仕組みでその運営はまかなわれている。 しかし近年、一連の不祥事報道を受けて受信料不払いが深刻な問題となるなど、 NHKのガバナンスのあり方から公共放送のあり方、NHK受信料に疑問が投げかけられる次第となった。 そこで我々はNHKの受信料収入が正当化されうるものか否か、検討を試みることにした。 仮にNHKが受信料収入ではなく、民間放送事業と同様広告収入を導入するならば (≒民営化するならば)、いくらの収益を見込めるか、民間放送局の視聴率と広告料収入の関係を導き、 それを元にNHKの仮想広告料収入を推計した。広告料収入を被説明変数とし、 視聴率とその放送局の世帯数を説明変数にキー・地方放送局のデータを回帰分析にかけた。 得られた結果はどの年もNHKの仮想広告料収入が現実の受信料収入を上回った。 これは現実にNHKの視聴率が民間放送局のものほど高いものでないとしても、 公共サービスの目標として掲げた「あまねく日本全国」へ放送番組を提供する放送網が、 翻ってNHK民営化の場合にも、広告業界にとって魅力的な宣伝媒介として働くためと思われる。
報告書(放送班).doc

(3)競争政策班(2年生)
報告書タイトル 光ファイバ(FTTH)市場における事業者間競争に関する問題分析
要旨
日本のブロードバンド市場は、DSLを中心に低廉な接続料の設定等によってサービスベース競争が進展し発展・拡大していったが、 近年、DSLからFTTHへのマイグレーション(移行)を背景にFTTH市場においてNTT東西の市場シェアが高まり、サービスベース競争の進展が滞る状況にある。 本稿は、FTTH市場の現状に鑑み、(1)FTTH市場においてDSL市場に比較してサービスベース競争が進展していない要因、 (2)FTTH収支の赤字や光ファイバ設備に対する開放義務の適用にも関わらず、 NTT東西が光ファイバ投資を積極的に行っている要因について分析した。 FTTHのサービスベース競争の阻害要因の候補としては、①接続料の水準、 ②最大8ユーザーを収容可能な1芯線単位での接続料が設定されるという接続条件、 ③ロックイン効果に伴うNTT東西ADSLユーザーのNTT東西FTTHへの移行等が候補として考えられるが、 ロックイン効果はNTT東西のシェア拡大の要因ではあるものの、競争を阻害するとまでは言えず、 接続料水準や接続条件といった接続の供給構造が主たるサービスベース競争の阻害要因と結論した。 NTT東西の光ファイバ投資インセンティブについて、 FTTH収支が赤字であるにも関わらず投資に積極的である理由として、 FTTH市場の競争においては、スイッチングコストの存在によりロックイン効果が生じやすいため、 NTT東西は新規加入者を先に獲得して長期的な利潤を得る戦略を採用していると結論した。 また、開放義務の適用にも関わらずNTT東西が投資に積極的であることに関して、 接続の供給構造によってサービスベース競争が阻害されている現状により、 NTT東西の投資インセンティブが確保されている面があることを指摘した。 今後の分析の候補として、 例えば、(1)複数のサービスベース競争の阻害要因のそれぞれの要素が、 実際にどの程度サービスベース競争に負の効果を与えているのか、 (2)接続の供給構造の改善が実際にどの程度NTT東西の光ファイバ投資に 負の効果を与えるのか等につき実証分析を行うことが考えられる。
報告書(競争政策班).doc

後期レポート

競争政策班(2年生)
報告書タイトル FTTH市場の競争構造が小売料金に与える影響に関する分析
要旨
近年DSLに代わりブロードバンドサービスの普及を牽引するFTTH市場(Fiber To The Home)では、 2種類の事業者間競争の形態が存在する。 第1の形態は、競争事業者(NTT東西以外の事業者)がNTT東西の光ファイバ設備を接続料を支払って借りることにより FTTHサービスを提供する「サービスベース競争」であり、 第2の形態は、競争事業者がNTT東西の光ファイバ設備を利用せず、 自ら光ファイバを敷設することで利用者にFTTHサービスを提供する「設備ベース競争」である。 FTTH市場では、両方の形態の競争が同時進行しており、しかも、地域によって、またFTTHの提供タイプの別 (戸建て・ビジネス向け、集合住宅向け)によって、それぞれの形態の競争の進展状況は異なる。 FTTHの提供タイプを特に区別せずに大まかに見た場合、例えば関東地方では、設備ベース競争よりもどちらかといえばサービスベース競争が優位であり、 関西地方では、サービスベース競争よりも設備ベース競争の方が優位な状況にある。また、FTTHの提供タイプ別に見れば、戸建て向けでは設備ベース競争が中心であり、 集合住宅向けでは設備ベース競争に加えサービスベース競争も一定程度進展していると考えられる。 本分析は、設備ベース競争やサービスベース競争が進展しているほど、FTTH価格は低廉化していると実証的に結論できるかについて、 2006年、2007年の2期間の市場シェアデータ、実勢小売価格データを利用し、 戸建て向けFTTH、集合住宅向けFTTHの両方について、回帰モデルにより分析を行った。 一般的には、いかなる形態の競争であれ、競争の進展(競争事業者のシェアの拡大)により小売料金は低廉化するものと予想される。 実際に回帰分析を行った結果、当該2期間においては、戸建て向けFTTH市場において、 (ア)設備ベース競争の小売料金に対する低廉化の効果は統計的に有意でなく、 (イ)サービスベース競争については、NTT東西がサービスベース競争でシェアを拡大するほど料金が低廉化する効果が統計的に有意な形で認められた (ただし、戸建て向けFTTH市場でサービスベース競争はそれほど進展していないと考えられるため、明確に結論付けることは困難)。また、戸建て向けFTTH市場において、 十分なサービスベース競争が起こっていないことを仮定し、 サービスベース競争をコントロールしなかった場合、設備ベース競争の小売料金に対する値下げ効果が統計的に有意な形で確認された。 集合住宅向けFTTHにおいては、 (ウ) 設備ベース競争の小売料金に対する低廉化の効果は一定程度あり(統計的に有意)、(エ) サービスベース競争については、料金低廉化効果は統計的に有意ではなかった。 特に集合住宅向けFTTH市場において、設備ベース競争の小売料金低廉化効果が確認されたことから、 政策的に設備ベース競争を推進することは一定の合理性があると考えられる。 他方、サービスベース競争に料金低廉化効果がないとまでは今回の回帰分析をもって結論することは困難であり、 今後のデータの蓄積等を待って長期間のパネルデータ分析を行うことが適当である。
報告書(競争政策班).doc


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