中国の産業競争力:中国企業と日本企業の強みと弱み

丸川知雄(東京大学社会科学研究所)

 

 中国からの工業製品輸出が伸びており、特に日本ではまもなくアメリカを抜いて最大の輸入相手国になろうとしている。中国の企業のなかにも海爾など有力と目される企業も出てきた。日本のマスコミでは「中国は世界の工場」「中国脅威論」等々、やや先走りすぎた報道が行われているが、中国の輸出の過半は外資系企業によるものであり、日本が1970年代終わりにアメリカに対して与えたような「脅威」とはだいぶ性格を異にしている。多くの報道が論じているのは実は「日本企業が日本国内の生産拠点を閉めて中国に移してしまう脅威」である。これは日本国内の構造調整の問題である。

 むしろ日本にとって長期的により重要な問題は、日本企業の相対的退潮と中国企業の台頭であろう。とりわけ、規模が急速に拡大している中国市場において、日本企業が中国企業との競争に概して苦戦しているという事実は深刻に受け止め、分析する必要がある。

 そこで、家電産業(テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、DVDなど)、IT産業(携帯電話機とパソコン)、自動車産業(乗用車と商用車)での観察から、中国企業の強みと弱みはどこにあるのか、また日本企業の強みと弱みはどこにあるのかを分析しよう。

 まず家電産業をみてみたい。中国のカラーテレビ市場における各社のシェアをみると、長虹、康佳、TCLら国内企業が上位を占めている。日本ブランドの人気は1990年代前半まではかなり強いものがあった。当時、日立以外は現地生産を行っていなかったので、主に香港を通じた密輸により、大量の日本企業の製品が中国に輸出された。1993年頃から数多くの日本企業がカラーテレビの現地工場を設立したが、その直後から日本ブランドのシェアは急落した。いまや日本ブランドは業界下位である。もっとも必ずしも投資が失敗したというわけではない。ソニー、松下、東芝の各社は中国のハイエンドの小さな市場を捉えており、事業的には失敗とはいえない。特に、プロジェクションテレビの市場では東芝、ソニー、三星、松下の4社で70%を占めているといわれる。ただ、中国の地場メーカーの著しい成長と価格競争のなかで日本ブランドは思ったほど拡大できていないことは事実であろう。

 次に洗濯機の市場を見ると、上位はやはり海爾など中国ブランドが占め、5位以下に松下、シーメンス、ワールプールなどが登場する。冷蔵庫も海爾が第一位で、外資系企業のなかではシーメンス、エレクトロラックスなど欧州勢は比較的健闘している。日系企業はかなり惨憺たる状況である。エアコンもやはり海爾、美的など国内企業の天下だが、日系企業も比較的上位に食い込んでいる。

 以上のように最終製品で見る限り、中国市場における地場企業の力は非常に強く、日本企業は思ったようにシェアを獲得できていない。これは東南アジアなど他の市場とは全く異なっている。こうした現状は、中国政府の保護主義のせいとはいえない。確かに1990年代初めまで、家電産業の最終製品生産に対する外国企業の進出は余り認められてこなかった。しかし、皮肉なことに進出がより自由に認められるようになった後に日本ブランドのシェアが下がったのである。

 もっとも、中国ブランドの家電製品の中を開けてみると、日本企業の競争力が決して弱くないことがわかる。例えば、カラーテレビのブラウン管においては日系企業が市場シェアの25%前後を占めている。PDPは世界でも松下、LG、三星、パイオニア、NEC、富士通の6社しか生産できない。中国ブランドが使うテレビ用ICも主に日本企業が提供している。中国国内でのエアコンコンプレッサ生産の90%は日系企業によるもので、東芝、松下、三菱、ダイキン、三洋、日立が生産している。VCDDVDプレーヤーは中国ブランドがほとんどだが、重要部品である光ピックアップはソニー、三洋、松下、シャープ、フィリップス、三星が供給している。

 次にパソコン市場をみてみると、デスクトップではやはり国内ブランドのシェアが大きく、日系はトップ10に入っていない。ノートブックでは外国ブランドと国内ブランドとの間に製品の外観、重さ等においてまだはっきりとした優劣があるが、一位はやはり中国ブランドだ。

 また、急成長を続ける中国の携帯電話市場においては、中国がGSM方式を採用したため、ノキア、シーメンス、エリクソン、アルカテルなど欧州勢が強い。早くから進出したモトローラも大きなシェアを持っている。日本は携帯電話方式が独特であることもあって、出遅れており、松下、三菱電機、NECなどが下位の方でもがいている。1999年頃、外国ブランドの天下であることに危機感を持った中国政府(信息産業部)は国産ブランドの保護政策に乗り出し、外国ブランドの新規進出規制、生産規模拡大規制を行う一方、国産メーカー19社に対して資金投入を行った。これにより国産ブランドが市場で徐々に拡大し、2001年末に20%2002年には30%を目指している。

 自動車産業は乗用車と商用車で状況が全く異なり、乗用車では生産台数の88%が外資系企業の製品である。日系は進出が遅れたこともあって、技術提携も含めても26%のシェアしかない。商用車では中国企業の天下である。

 以上の様々な市場および上位企業を観察したところからみて、中国企業が各市場で優位に経っている要因は次の各点にあるといえる。(1)サービスにおける優位性。とりわけ、家電とIT産業におけるサービスは日本国内での日本企業のサービス水準よりもかなり高い。外資系企業はサービスへの進出規制もあってサービスネットワークを十分に展開できていない。(2)生産コストにおける優位性。外資は高品質を維持するために高い機械・部品を使うため高コストになりがち。(3)購買戦略における優位性。部品購買に当たって中国企業は2−3社併注を行うのが一般的。他方、日本企業が優位を持っているのはキー・コンポーネントの供給に見られるように、(4)核心技術を掌握していることである。

 中国企業の強みが特に(1)であるとすれば、この要素は外国に持っていくことが難しい。従って、中国企業が自社ブランドによって人件費の高い先進国市場を攻略することは難しいだろう。日本企業は一般的には(2)(3)を真似することは品質を落とす可能性があるので難しい。(スズキ自動車のような例外もある。)ただ中国市場においては(1)を大いに学ぶ必要があるし、その面で長けた中国企業との提携も有効であろう。